クリニックの取組み
7月21日~23日、スペインのバルセロナでEuropean Hair Research Society(EHRS) の第16回学会が開催されました。EHRSにはヨーロッパを中心に、北米、韓国を含め世界中の研究者、医師が参加しています。男性型脱毛症を含め、脱毛症の治療や毛髪の研究に関わる医師、研究者が一堂に集いました。 筆者は「Association of androgenetic alopecia with obesity, hemoglobin a1c, low-density lipoprotein cholesterol, alanine transaminase, gamma-glutamyl transpeptidase and systolic blood pressure: a clinic-based survey in Japan」というタイトルで、日本人男性において、肥満、血糖、血圧などが男性型脱毛症(AGA)の進行に関連しているという研究成果を発表しました(写真1)。
韓国のWon-Soo Lee教授(写真2)のグループの発表「心疾患患者における男性型脱毛症の進行と分布」(写真3)に見られるように、古くから心疾患(心筋梗塞や狭心症)とAGAの関連性は報告されていました。心疾患とAGAの関連性を最初に報告したのはCottonらで1972年のことです(※1)。 以降、同様の報告が多数存在しますが、2000年のLotufoら(Harvard Medical School)の論文は統計解析の規模と方法において、心疾患とAGAの関連性を示した信頼性が高い論文になっています。
一方で心疾患のリスクファクターとして知られている高血圧やメタボリック症候群、糖尿病についてはAGAとの関連性を示唆する報告もあれば(※2)(写真4)、その関連性を否定する報告もあり、AGAとの関連性の有無については結論が出ていませんでした。FMLでは、このことに注目して協力クリニックの男性型脱毛症患者様のデータを統計解析しました。その結果、従来から男性型脱毛症との関連性が知られている遺伝(親の薄毛の有無)や年齢に加えて、新たに、肥満、血糖値、血圧などがAGAの進行と統計上の関連性を示すことを発見し、今回の発表に至りました。統計解析には限界があり、肥満とAGAの関連性について、肥満がAGAを進行させてしまうのか、それとも、肥満に至る原因とAGAを進行させる原因が共通しているために両者に関連性が生じたのか、は今回の研究ではわかりません。また、対象とする集団を変えれば、これらの関連性について異なった結果が出てくる可能性もありえます。今後、更なる研究が必要となります。
FMLでは患者様へのより良い治療の実現を目指して従来のクリニックから発信する臨床研究に、大学病院をはじめ研究機関との連携による基礎研究を追加して、毛髪分野での研究を継続してまいります。2013年のWorld Congress for Hair Research(写真5)でその成果を報告したいと考えております。 (城西クリニック 小山太郎)